仏の道:トラムを走る

パリは新しい建物はなかなか建たないけれど、街の動きは少しずつ変化しているらしい。都市のモビリティの新たな編目がゆるやかに広がっているのだ。


市内のあちこちに「VELIB」という市営のレンタサイクル・パークができて、場所から場所へと自転車で自由に移動できるようになった。体力をもてあましたラテン式エコである。極東の草食動物には車道を走るなんてそら恐ろしい、絶対に利用することなどないだろうが…。



そのかわり、パリの公共交通機関が1週間乗り放題となるカルト・オランジュ(16ユーロ)を手に入れたので、朝から大学都市前を走るトラムに乗ってみた。いわゆる鉄子である。



パリのトラムを経営するのは公団のRATPである。RATPはJRと営団都営地下鉄とモノレールを足しあわせたような?会社であり、パリを中心とするイル・ド・フランス県の公共交通機関(電車、バス、メトロ、トラム)を一手に経営する。そのRATPが現在もっとも力を入れているのがパリのトラム開発だ。大学都市前を走るトラム3番線は去年の12月にオープンしたばかりで、パリ南郊の境界線(Peripherique)内側を走り、中華街のあるポルト・ディヴリーからセーヌ川脇のポン・デュ・ガリリアーノまで東西を結ぶ。現在、路線のさらなる延長が検討されているそうな。


ちなみにRATPのサイトによれば「パリのトラム開発は皆様に速く快適な近代的な移動手段を提供いたします」…。確かに乗り心地も良いし風景も楽しめるしきもちよい。なんといっても地面の高さを走るトラムの軽やかさは都会のちょっとした移動にはぴったりだ。ただし1、2年後にはかなりボロくなっているのは確実だから(RERや地下鉄のように)、乗るなら今です。


http://www.tramway.paris.fr/



東京の再開発は巨大な点が増えていく割に点と点どうしが結びつかない。きっとヨーロッパの都市が「道」を基本に発達しているのとは対照的なのだろう。たとえば都心部を移動するのに、意地でも自動車を使わずに、自転車やジョギングで街と街の間を移動するのは、知識がなければ結構難しいのである。東京が大村落の集合体、ツイツイ東京音頭を口ずさんでしまう大東京村民…であるためだろう。これは必ずしも、昔の人はそうだった…と歴史のせいにばかりもできず、例えば六本木の新国立美術館/森ビル/東京ミッドタウンが、物理的には近接しているのに、歩いて移動するのが意外なほど難しいのにも現れている。東京に「道」の発想が欠けているからかもしれない。


逆に、「道」単位で構成されているパリを歩くと、道から外れるのも難しく、たとえば大学都市の中をジョギングしていると、いくら脇道に外れようとも、いつのまにか元の道に戻されてしまう。明晰性と啓蒙主義が行き渡ったフランス庭園。おまけに街の清潔さでは東京とパリでは比べものにならない。どっちもどっちといえばそれまでである。好みの問題だ。


閑話休題、3番線のトラムの中はブルー・マンデイな通勤客でこみあっている。観光客が写真を撮るのはいかにもアホっぽくてひたすら戸外の風景を眺めた。富山のトラムを思い出していた。



ガリリアーノからRERを一駅乗りトラム1番線に乗りかえる。セーヌ川沿いを走る1番線は昔から憧れだった…けれど、想像していたように川縁を走るわけでもない。とはいっても緑の中を走り抜ける風景、気分はすっかり印象派ジャン・ルノワール…。




終点は新凱旋門のあるデファンス。郊外線L線という不思議な電車に乗りパリ市内サン・ラザール駅に生還。




オペラガルニエ、からバスでオペラバスティーユをまわって、さらにバスを乗り換えて大学都市に戻ってきた。そして今日もグラウンドをハシリ、サンミッシェルのギベールジジイの店で地図を眺めて帰ってきても、9月のパリはまだ日が長く、8時になってもまだ暮れがたい。夜もまた長いのだ。というよりこんなにブログ更新してていいのだろうか。